人事のススメ!

これからの時代に求められる人事の考え方を書き綴るブログ

組織の存在意義とは何か? MVVを考える!

MVV(Mission・VisionValue)とは? 

昨今、人事界隈では「理念浸透教育」というワードが、キーワード(バズワード?)になっている。理念とは、その名の通り「経営理念」なのだが、古くは社是・社訓として、最近ではMVV(Mission・VisionValue)と表現され、それを組織・社員の道標として、同じ方向性に向く(エンゲージする)ように利用・活用されている。なぜ、この「理念浸透教育」が界隈で新たなテーマとして掲げられているかというと、わかり易くこの浸透が上手くいっていないという課題感からなのだろう。不確定要素の高い時代、変化の激しい時代には、何か「理念」というような骨太な思想が、個人を安心させる材料になるということには、異論なく納得してしまう。

Mission・VisionValue それぞれの定義については、企業各社によって様々な言い回しがありますが、多くの企業が下記のような定義・関係性を描いているのではないだろうか?

  • Mission …使命・存在意義(何故、存在するのか?)
  • Vision    …将来像・あるべき姿(何を、為すのか?)
  • Value  …価値観・行動指針(どのように、行うのか?)

 

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個人的には、上記のようなピラミッド型(あたかもMissionがGoalであり、その為に通過点としてのVisionがあるような考え方)よりも、序列なく三位一体的な捉え方や、Vision(=将来像・あるべき姿)がMissionの上位にある考え方(こう在りたいから、これを使命とする)も成り立つと考えるのですが、一般的にはこのような定義・関係性で語られることが多い。

 

なぜ、MVVを定義することが重要となってきたのか?

近年、スタートアップ企業を中心に、自社のHPにこのMission・VisionValueを掲げる企業が増えてきています。皆さんもご存知の通り「Wantedly」という求人サービスでは、(報酬・待遇を訴求・掲載することは禁止されており)組織の価値観や働き方、雰囲気や社員そのものに重点をおいた訴求をコンセプトにしています。この傾向が意図するところですが、個人が働く上で、報酬・待遇やはたまた会社規模・知名度だけでは、動機されなくなってきていると言えると思います(もちろん報酬・待遇は重要だとも思うので、一切関係ないとまでは言い切れませんが…)。この変化がどこから来ているかと、僕なりに考えてみますと、それはお金だけでは、人は「幸福感」が得られなくなってきているのだと帰結しています。やもすると「幸福感」は、「生きている実感」と置き換えてもいいのかもしれません。特に、若い人ほどその傾向は高いと感じられ、昭和時代のように報酬が高いけれども何かを我慢したり犠牲にしたりする働き方に何の魅力も持っていないでしょう。自分らしくない働き方をするくらいなら、報酬は低くても、好きなことや楽しいと感じることをやれた方が、よほど「幸福感」が高いと感じるのです。

加えて、こうしたMVVが近年になって現れたわけでもありません。昭和時代に設立・創業された日本を代表する著名な企業においても、社是や社訓というものがありました。ある意味においては、社是や社訓もMVVと意図していることは変わらないとも言えなくないですが、それでも若者の捉え方は、同じとは見ていないように思えます。どこが異なると思いますか? (必ずではないものの)社是や社訓には、経営者のトップダウンの管理・統制意思があるように、僕には思えてなりません。言葉を変えると「ルール」です。(必ずではない)と表現したのは、社是・社訓と名乗っていても、トップダウンではないケースもあるでしょうし、MVVと名乗っていても、トップダウンなルールとして定義しているケースもきっとあるからなのですが、スタートアップ企業が社是・社訓ではなく、MVVと言葉を変えて語るには、きっと言葉の持つニュアンス・イメージがあってのことだろうと、憶測しています。

そう考えると、本質的に大切なのは、企業の経営者が、MVVや社是・社訓の受け取り手である社員に対して、「WE(我々は)/ SHALL(一緒にやろう)」と捉えているのか、「YOU(社員は)/ MUST(やれ)」と捉えているのかの違いのように思えてくるのです。世の中が変化し、企業が絶対安泰ではなくなり、転職や副業・複業も当たり前になった時代だからこそ、企業と個人が対等関係で「我々は一緒にやろう」とエンゲージ(組織と個人が同じ方向を向ける)されるMVVこそ、有意義であり、これからの時代に求められると考えた方が良いでしょう。

 

MVVの策定の仕方・浸透させる工夫

さて、このMVVをどのように策定するかは、経営の悩みどころの一つでしょう。本来であれば、経営を掌る以上、内なる本音や本心を言葉に載せて書き出すだけでも良いはずなのですが、その本音・本心ががエンゲージメントにどれだけ有益に働くかは、そのメッセージ如何によって大きく差がつくことでしょう。上手く策定するコツの一つは、「WE / SHALL」という思いを表現することですが、本質的・根本的には、マネジメントの原理原則やエンゲージメントという観点から策定するのがオススメです。

まず「方向性を示す」ということは、経営・マネジメントの原理原則であり、重要な役割の一つです。所属する社員・メンバーがどこに向かうのか、同一のベクトルに向かって動けるように・働けるように方向性を示さなければならないのです。この方向性が、まさにMVVなのです。このMVVはその企業の経営・社員だけではなく、顧客にも通じる。この企業・組織はどこを目指しているのか?何をするのか? に共感し、その企業を選択することは多々ありますし、反対に方向性に共感できず、その企業を選択しないということも多々あります。また、MVVを設定する上で、経営・マネジメント自身が決めることも重要です。これはリーダーシップ論に脱線してしまうが、経営・マネジメント自身の人格・人柄にも大きく左右されてしまいます。それくらい、誰が決めるか・語るかも重要であり、どんなに綺麗なもしくは格好いいMVVであったとしても、経営・マネジメントが反することをしていたり有言不実行な状態では、「絵にかいた餅」であり、エンゲージどころか社員はむしろ離れていってしまうでしょう。

では、どうすればいいか? オススメなのは、 社員と話せば良いし、社員の話に耳を傾ければ良い。社員とよく対話をすることで、経営自身が目指す方向性が、その組織にフィットする言葉に研ぎ澄まされていくことでしょう。理念浸透に苦慮している企業もよく聞くが、どうやったら浸透するかと工夫するよりも先に、どのようなMVV(が浸透するか)にするかをまずは最初に深く考えた方がよほど良い。よく居酒屋で、会社の不平を溢しているサラリーマンを見かけるが、よくよく聞けば、ものすごく良い意見もたくさん耳にします。何故に、オフィスではその意見が述べられないのか? とも思ってしまいますが、おそらく勇気がなかったり、恥ずかしかったり、場合によっては言い出せない環境・雰囲気がきっとあるからなのでしょう。

もちろん、居酒屋でくだを巻くサラリーマンを肯定するわけではないですし、けして社員・部下に迎合しろという意味ではありませんので、これも書き添えておきたいと思います。近頃は、ハラスメントになるのではということを恐れ、部下の顔色ばかりを気にする管理職も増えているという実情もあります。経営・管理職は、部下の本音を聞き出し、自身の考える方向性との共通項や中間点を見出すことが自身の役割だと捉え、是非勇気を持って自身の考えを提示したり、社員の話に耳を傾けてみるといいと思います。ここまでくると、残りはどのように表現するかにかかってきます。これにはセンスを要し、社員・部下が共感・納得し、イメージができる表現をひたすら考える必要があります。多くの人が納得するには、抽象度を上げると良いし、イメージができるようにするには、必要十分にシンプルな表現の方がより好ましいです。必要以上に細かく・長いメッセージは、不必要な解釈や定義・説明をさらに必要にしてしまうことになりかねません。

MVVが描け言葉に出来たら、書面に落とし可視化しましょう。そして、社員・部下が目につく場所にとにかく張り出しましょう。何度も何度も声に出して、言い続けましょう。心底に浸透するには時間がかかるし、手間がかかると考えましょう。様々な企業が、この理念浸透にも力を入れていて、ポスターを張り出す企業もあれば、クレドや冊子にしていつでも携帯できる工夫をしている会社もあります。過去に僕が実施した工夫としては、PCのスクリーンセーバーにMVVを全社員表示させ、嫌らしさもないが、否応なしに目に触れることをしたこともあります。社員・部下が(嫌がるくらい)浸透するまでは、言い続けましょう。そうでもしないとなかなか定着はしないのです…

 

組織改革―ビジョン設定プロセスの手引

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目標・計画にまでブレイクダウンする!

僕自身は、個々人が自律した世界観を標榜する「ティール組織」論者の為、MVVさえ定まれば、後は個々人が、自律して自ら考え行動することこそが、理想だと考えていますが、現実的には、(残念だけれど)このMVVだけでは人は動かないという企業ががあるのかもしれません。(さらに残念だけれど)手取り足取り具体的な指示にまで落とした方が、より早く・より効率的に価値や成果が発揮できるという効果も現実的にはあるのでしょう。不本意ではありますが、そういう組織においては、自律・学習する組織になるまでの過渡期と捉え、戦略・戦術・計画までを定義し、部下に伝えるところまでセットで行うと良いでしょう。

MVVを設定すれば、どこに向かって進むかという方向性は決まります。しかし、方向性というのは、ある意味曖昧で、特にはどこまでやればいいという深さや質については、不明確でもあります。あらゆる企業で定めている「目標」とは、その方向性に向かって、どの程度やればいいのかを定義することだと言い換えることができるでしょう。これは、非常に多くの企業で導入されている目標管理制度(MBO)の評価目標値にブレイクダウンされ、部門や個人に課せられます。(個人的には、目標や報償をぶら下げてまでしないと行動しない組織は、自律していないか、MVVの浸透が為されていないと悔しく感じますが)この目標管理制度を有効に機能させるならば、どの程度行えば達成したと言えるのか、つまりは企業や部門は喜べるのかを定義すると良いかと思います。当然ですが、実感を高めるには、それが測定できることが望ましく、定量化=数値化できる目標に出来ると尚のこと機能はすることでしょう。さらには「いつまでに」という期間・期限を定めるとその効果は増します。期限を定めないと、自律していない社員はいつまでたっても目標を叶えられないですし、期限を定めることでタスクの完了が早いのか遅いのかがハッキリと分かるようになります。この「いつまでに・どこまで・やるのか」これが「目標」であり、さらに分解されたタスクを、誰が、いつまでに、どのように達成するのかを決めることが「計画」となるのです。

2000年頃に日本中の会社に浸透したこの目標管理制度は、20年も経った今でも多くの会社が導入・適用しています。これは、社員をコントロールしやすい仕組みであるし、客観的に評価しやすい仕組みであるからという理由でここまで定着したのでしょう。わかりやすくいうと、管理・統制を行い易くする為のツールであり、僕が個人的に理想とする「ティールな組織」とは真逆の発想ではあるのですが、とは言いつつも、利点があるというのも理解できます。ただし、果たしてこれからの変化の激しい時代・正解がわからない時代にいつまでも利用できるか・有効かというと甚だ疑問が残るというのが個人的な見解です。具体的に目標を据えようとしても、半年先がわからないという事象や、立てた目標をすぐさま変更しなければならない事象に、きっと多くの企業や個人が見舞われることになりかねないでしょう。個人的には、大きな方向性(MVV)だけを心底から皆が目指して、都度工夫を繰り返しながら、速やかに考え、行動した方が、よほど幸福感が高いし、いつかはその方が早いとか成果が高くなるとかになるとも強く信じています。昨今、目標管理制度を辞めて、OKRを導入している企業が増えてきているのも、きっと同じ考えなのでしょう…

 

正しい目標管理の進め方―成果主義人事を乗り越える職場主義のMBO

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笑顔でいれば、可能性はきっと広がる!