こんにちは!人事のツバクロです。前回前々回と堅苦しいガバナンスの話が続いたので、今回は少し明るい「エンゲージメント」についてお話ししたいと思います。人材開発の中で、従業員のやる気を引き出し、ポジティブなエネルギーを創出する上で、エンゲージメントは非常に重要な概念です。
エンゲージメントとは? ES調査とは何が違う?
皆さんは「エンゲージメント」と聞いて、何を思い浮かべますか? 昔よく耳にした「ES(従業員満足度)調査」や、「モチベーション」「コンディション」といった言葉と同じように捉えられがちですが、これらとは少し思想が異なります。
従業員満足度調査は、シンプルに従業員の希望や要望に会社がどれだけ応えているかを測るもので、言ってみれば「従業員が望むことをただやればいい」という、一方通行の視点になりがちでした。
しかし、エンゲージメントは違います。 正しく解釈すると、「組織が向かう方向性」と「従業員個人が向かう方向性」がどれだけ合致しているか、その度合いを指します。
つまり、「会社がやりたいこと」と「個人がやりたいこと」が同じベクトルを向いているか、というお話です。
もちろん、従業員の要望に耳を傾け、モチベーションを向上させるアプローチも決して否定するものではありません。しかし、それが必ずしも組織が目指す成果に直結するわけではない、ということを理解すると、さらに解像度が上がります。エンゲージメントは、組織のやりたいことと個人の要望が同じ方向を向くように仕立てる、という双方向性の概念なのです。
エンゲージメントの分解と測定
エンゲージメントは、大きく2つに分けることができます。
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組織エンゲージメント
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組織のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)に、従業員がどれだけ共感しているか、という度合いです。
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職務エンゲージメント
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組織から託されている仕事の内容が、自分自身がやりたい仕事とどれだけ合致しているか、という度合いです。
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最近は、この組織エンゲージメントと職務エンゲージメントをさらに細かく要素分解し、スコアで可視化するツールが増えています。 特に、Wevoxのようなエンゲージメントサーベイは非常に象徴的なツールですね。これらのツールを使ってスコアを測り、課題を特定し、つぶしていくのが人事の役割となります。
エンゲージメントサーベイは「一喜一憂」で終わらせてはいけない
私が人事担当者として強くお伝えしたいのは、エンゲージメントサーベイを導入して「測っただけ」では意味がないということです。
多くの会社では、サーベイ結果のスコアが良かったら喜び、悪かったら悲しむ…という、いわゆる「一喜一憂」で終わってしまいがちです。しかし、それでは何のために調査をしたのか分かりません。
エンゲージメント調査は、組織と従業員の関係性を見直すためのツールです。
正しくエンゲージメントを測った上で、「組織のあり方自体を見直すべきなのか」、あるいは「従業員個人のあり方を見直すべきなのか」、この見極めと、その後の施策を立てることが本来の人事の役割です。
学術的な視点から紐解くエンゲージメント
ここで少し学術的な話になりますが、エンゲージメントのスコアを読み解く上で役立つ概念があります。
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衛生要因(Hygiene Factors)と動機付け要因(Motivator Factors)
動機付け要因は、「短期的な動機」とも言われ、注意が必要です。分かりやすい例で言うと、インセンティブは導入当初はやる気が増しますが、すぐに慣れて「当たり前」になってしまいます。表彰制度やチーム会議なども同様に、マンネリ化すると効果が薄れてしまうことがあります。
動機付け要因への対策は、「導入→検証→継続/廃止」のPDCAサイクルを短期間で回すことが重要です。これは、組織学習の第一人者であるクリス・アージリスが提唱した「ダブルループ学習」にも通じる考え方です。単に結果(シングルループ)を改善するだけでなく、その背景にある前提や思考(ダブルループ)自体を見直すことが、持続的なエンゲージメント向上には不可欠なのです。
人事の「3つの見極め」:鵜呑みにせず、正しく判断する
人事として、エンゲージメントサーベイで出てきた「低いスコア」や「従業員からのコメント」を、単純に鵜呑みにしないことも非常に重要です。
なぜなら、従業員の要望や意見は、当然ながら「こうだったらいいな」という欲望や自己防衛本能に基づいていることが多いからです。心地よいこと自体は悪いことではありませんが、それが組織の成果に直接繋がらない場合もあります。
私自身がよく使うのは、以下の3つのアプローチです。
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受け止める
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従業員の意見や低いスコアを見て、「これは受け止めて対策を講じるべきだ」と判断するケースです。
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例えば、衛生要因に課題が見つかった場合や、組織の成果に繋がる良いアイデアが出た場合などがこれに当たります。
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受け流す
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意見は聞くものの、「これは組織の方向性を改善しない」と判断し、あえて対策を取らないというアプローチです。
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人間は本能的にコンフォートゾーンにとどまりたがる傾向があります。その域を出ず、ただ心地よいだけの意見であれば、時には受け流すことも大切です。
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打ち返す
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「組織ではなく、従業員側が変わるべきだ」と判断した場合、意見やスコアに対して反論を投げかけるアプローチです。
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「この考え方は間違っている」「正しく軌道修正しなければならない」というメッセージを、「なぜならば」という論理を添えて返してあげることで、従業員の成長を促します。
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明るい人事とはいえ、最終的に目指すべきは「組織を強くすること」です。そして強くなった組織が、「従業員を幸せにする」という好循環を回すことです。
エンゲージメントサーベイの結果を単純なスコアで判断するのではなく、「受け止める」「受け流す」「打ち返す」の3つの視点で、手をつけるべきか否かを正しく見極めることが、人事の重要な役割を占めます。
この判断をすることで、エンゲージメント施策は、組織開発や労務、さらには採用まで、ガラガラとドミノ倒しのように全体を変えていくきっかけとなります。常にPDCAを回し続けることが重要ですね。
今日はエンゲージメントについて、その読み解き方、対処の仕方、そして人事が何をすべきかについて書かせていただきました。
次回もお楽しみに!